●以下は、あるメールでのご質問に対するお答えです。
生存権の問題は極めて重要です。
生存権を保障していない国の憲法で有名なのは、アメリカ合衆国憲法です。アメリカ憲法には、そもそも社会権の観念がありません。それから、福祉でよく話題に出される、スウェーデンやデンマークはどうでしょう。これも日本国憲法の生存権とは一味違っています。たとえば、スウェーデン統治法典第二条4項ですが、
「4 公共機関は、社会のあらゆる分野における指針としての民主主義の理念を尊重し、および国民の私生活および家族生活を保護しなければならない。 公共機関は、すべての人が、社会生活における参加と平等のための機会が得られるように努めなければならない。
公共機関は、性、皮膚の色、国籍または人種、言語または宗教的帰属、障害、性的志向、年齢その他個人的事由に基づく差別と闘わなければならない。」
とういうようなことで、「平等権」のニュアンスが強いです。デンマーク憲法は75条二項で、
「自己またはその扶養者の生活を維持することができない者は、ほかにその扶養に任ずるものがない場合、
公的扶助を受けることができる。----」とあります。これは、公的扶助(所得保障)のことですね。
日本の生存権は、マッカサー憲法草案にかかわったベアテ・シロタがいろいろワイマール憲法などをひっくり返して原案をつくったのですが、最初の彼女の案は、国連憲章や国際労働機関基準など国際法を意識した具体的なものでした。それが、あとで、削られていまのようになりました。
これは、私見ですが、「健康で文化的な最低限度の生活」というのは、行政に恣意的な解釈をさせる問題の多い文言だと思われます。「最低限度」という文言をはずして、世界人権宣言や国際人権規約(国際法基準)のような「人間の尊厳ある生活」とかいう文言に変えて、そして、スウェーデンのように、公的機関に差別と闘う義務を課す規定も設けてもっと厳密にすべきです。あいまいで、パターナリズム的(温情主義)な生存権規定は、あのナチスが生存権を利用して支持をひろげたことからみても危険だと思います。
【白崎・記】